Tokyo Otaku Mode を小学館が買収 — 創業期から関わった一人として振り返る

重岡 正 · Wed, November 22, 2023

Tokyo Otaku Mode が、大手出版社の小学館に完全買収されたことが明らかになりました。日本のアニメや漫画を世界に届けることを掲げ、メディアから e コマース、越境ロジスティクスへと事業を広げてきた会社です。

私自身、この会社に創業期から 8 年ほど、エンジニアとして、そして株主として関わらせてもらいました。だから今回のニュースは、ただの業界トピックとして読めるものではありませんでした。内側にいた一人として、創業からこの日までの歩みを振り返ってみます。

「日本のオタク文化を世界へ」という出発点

Tokyo Otaku Mode は、2011 年 3 月に創業しました。代表の小高奈皇光氏は、メリルリンチの投資銀行部門出身で、その後ガイアックスの CFO を務めた人物です。創業の翌年、2012 年 4 月には世界展開を見据えてアメリカ法人を設立しています。最初から国内ではなく、世界を相手にするつもりで始まった会社でした。

立ち上がりはメディアからでした。日本のアニメや漫画の最新情報を英語で発信し、Facebook ページを軸にファンを集めていきます。フォロワーはやがて 2,000 万人に達しました。この数字は、当時の日本発のサービスとしては突出していて、「海外のオタクカルチャー好きに、日本のコンテンツを英語で直接届ける」という発想が確かに刺さっていたことの証拠でした。

私が関わり始めたのは、まさにこのメディアがまだ手探りだった時期です。何が読まれ、何が伸びるのか、データを見ながら作っては直す日々でした。世界中のファンが相手なので、反応のスケールも時差も国内サービスとはまるで違う。エンジニアとしては、この「最初から世界が前提」という環境そのものが、得がたい経験でした。

メディアから e コマース、そして越境ロジスティクスへ

メディアで世界中のファンとの接点を作ったあと、事業はキャラクターグッズの商品化と e コマースへと広がっていきます。「日本のコンテンツが好きだけれど、海外にいるから手に入らない」という人たちに、どうやって商品を届けるか。ここが次の挑戦でした。

その答えの一つが、越境物流サービスの「セカイロジ」です。e コマースやクラウドファンディングで手に入れた商品を、世界中へ配送できるようにするロジスティクスのアウトソーシングサービスでした。コンテンツを届けるメディアから、モノを届けるインフラへ。会社の重心が静かに移っていった時期で、エンジニアリングの課題も、表現や配信から在庫・配送・決済といった、より泥臭く現実的なものへと変わっていきました。

2014 年 9 月には、日本の官民ファンドであるクールジャパン機構から出資を受けた第 1 号案件にもなっています。「日本のポップカルチャーを世界へ」という国の政策的な狙いと、Tokyo Otaku Mode がやろうとしていたことが、ちょうど重なった瞬間でした。

株主として見ていた資金調達の歩み

資金面でも、Tokyo Otaku Mode はそれなりの規模を集めてきた会社です。公表されているシリーズ A・シリーズ B ラウンドを合計すると、調達額は 18 億円以上にのぼります。直近では 2018 年 1 月にニッセイ・キャピタルからの調達を実施しており、2022 年 8 月時点での予想評価額は約 30 億円とされていました。

私はエンジニアであると同時に、ごく小さな立場ながら株主でもありました。だから資金調達のニュースが出るたびに、技術をつくる側の視点と、会社の価値が育っていくのを見守る側の視点、その両方でこの会社を眺めていたことになります。手を動かして作ったものが、事業として評価され、数字として積み上がっていく。その過程を当事者として見られたのは、エンジニアとしてのキャリアの中でも特別な経験でした。

なぜ、小学館だったのか

今回の買収条件などは明らかになっていません。ただ、相手が小学館だったという事実そのものに、この M&A の筋の良さが表れていると思います。

小学館は、言うまでもなく数多くの人気コンテンツを抱える出版社です。その自社 IP を海外へ広げていくうえで、英語圏のファンとの長年の接点と、越境 e コマース・物流の実務ノウハウを持つ Tokyo Otaku Mode は、きれいに噛み合うピースでした。コンテンツを持つ側と、それを世界へ届ける経路を持つ側。両者が一つになることで、小学館は自社 IP の海外展開を一段強められると見られています。

体制としても、小高氏は代表取締役社長を、安宅基氏は取締役副社長を続投します。取締役会長には小学館代表取締役社長の相賀信宏氏が就き、取締役や監査役は小学館から派遣される形です。会社が吸収されて消えるのではなく、これまで積み上げてきたものを土台に、より大きな後ろ盾のもとで次へ進む。そういう着地に見えました。

一つの章が閉じ、新しい章が始まる

スタートアップの物語は、上場か、それとも消滅か、という二極で語られがちです。けれど実際には、こうして「より大きな企業の一部となって、やりたかったことをさらに広げていく」という結び方もある。Tokyo Otaku Mode の歩みは、その一つの形を見せてくれたと思います。

私にとっては、創業期からの 8 年ほどを、エンジニアとして、株主として共に過ごせたこと自体が財産です。最初から世界を相手にし、メディアからモノを届けるインフラまでを自分たちで作っていく。そんな現場に居合わせられたのは、本当に貴重な経験でした。

新章突入ということで、これからの Tokyo Otaku Mode を、一ファンとして楽しみにしています。

なお、本記事は THE BRIDGE の報道を参照しています。

以上、Tokyo Otaku Mode が小学館に買収されたニュースを、創業期から関わった一人として振り返った、現場からお送りしました。

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