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The Great Engineering Leader Career Break を新陳代謝と新しい CTO 像で読む — Pragmatic Engineer の 6 つの理由への現場からの応答

重岡 正 · Thu, August 20, 2026

Gergely Orosz が The Pragmatic Engineer で公開した Headed for the Exit: the Great Engineering Leader Career Break を読みました。CTO・VPE・Head of Engineering といった high-status なポジションから、次を決めずに降りていくエンジニアリングリーダーが増えているという観察から始まり、その背景を 10 の理由に分解している記事です。私は今、日本のフルリモート組織でハンズオン型の CTO として働いている立場から、この記事の主要な 6 つの理由に反応しておきたいと思います。

先に総論だけ書いておきます。ここに並んでいるものは、事実としてそのとおりだと思います。ただ、それをどう受け止めて、何を選ぶかは個々人の生き方の問題です。同じ景色を前にして、キャリアブレイクを選ぶ人がいてもよいし、居残って組み直す人がいてもよい。私の応答は「居残る側」の立場からの整理として書きます。軸は 2 つです。ひとつは新陳代謝、もうひとつは AI エージェントと Human を束ねる新しい CTO 像です。

元記事が挙げる 6 つの理由

元記事の目次から、この記事で扱う 6 つを引用します。

  1. The job got (much) worse
  2. The startup is “losing” and becoming worthless
  3. Not being AI-native enough for other skills to be relevant
  4. Their predecessor saw the “writing on the wall”
  5. Long hours – rarely decisive
  6. Smaller teams mean less need for leaders

以下、順に応答します。

1. The job got (much) worse — 去るのも残るのも新陳代謝

元記事は、CEO や founder から寄せられる「AI-native への魔法のような転換」「20〜50% のエンジニアリングコスト削減」「fewer people で shipping more」「AI コーディング請求書の急増と業績圧力」「動くかどうか怪しい AI プロトタイプを数週間でプロダクトにしろ」といった非現実的な期待が、CTO・VPE の仕事を予測可能な形で悪化させていると整理しています。加えて、「AI psychosis」に陥った hands-on な founder が 60,000 行の PR をレビュー無しでマージし、それに伴う技術負債やアカウンタビリティの空洞化を CTO が処理することになる、という描写もあります。

書かれていることは分かります。しんどい状況が組み合わさっているのも事実です。ただ、私はここで「だから辞める」も「だから残る」も、どちらも十分な答えだと思っています。

辞めるのは合理的な選択です。CTO が自分の役割設計と会社の期待値がずれていると感じたら、組み直すか、離れるかしかありません。そのうえで、CTO が去ったあと、残された事業が成功するかしないかは、その会社次第です。CTO が去ったことで事業が失敗したとしても、それは会社としての新陳代謝が一段進んだということでしかありません。次の CTO、あるいは founder 自身が学び直して次の局面に進むか、そこで会社が終わるか、その判断は市場と経営陣がやります。

残るのも合理的な選択です。非現実的な期待の中を仕組み直すのは、CTO の腕の見せ所そのものです。60,000 行の founder PR を「マージ済み」から「レビュー可能なサイズ」に分解する仕組み、AI コーディング請求書の予算ガードレール、founder の直接プロダクション反映を止めるための CI/CD デザインなど、やることは山ほどあります。ここを設計し直せる CTO は稀少です。

大事なのは、辞めるにせよ残るにせよ、その選択が会社全体の新陳代謝の一部だと理解しておくことだと思います。CTO 一人の去就に「会社の成否」を背負わせすぎない、というのが私の立場です。

2. The startup is “losing” and becoming worthless — これも新陳代謝

元記事は、AI-native なプロダクトを作って売っているスタートアップ、AI-native な競合に脅かされているスタートアップ、AI の影響をほぼ受けない事業の 3 つに分類したうえで、多くの VC マネー系スタートアップが前 2 者のいずれかに入り、CTO が持っている common shares 由来のエクイティが preference stack の下敷きで実質ゼロになりつつある、という状況を描写しています。具体例として、2% のエクイティを持っていても、Seed $10M(valuation $50M)と Series A $100M(valuation $500M)で 2x preference が組まれていると、$210M 以上での売却でようやく common shareholders に $1 でも回る、という試算が示されていました。

これも書いてあることは分かります。負けているスタートアップに残り続けても、報酬面の期待値は低い。ただ、これも新陳代謝が起きているだけだと思います。

VC マネーの入っているスタートアップは、資本市場の期待値と実際の売上・成長の差分で常に評価が動きます。AI-native な競合に食われるのも、AI ネイティブに転換しきれずにフェードするのも、Bending Spoons が Airtable を買収したようにピボットせず売却する道を選ぶのも、市場サイドから見れば新陳代謝の一形態です。

CTO が抜けるかどうかで会社が助かるか終わるかが決まる、と考えるのは自意識過剰かもしれません。もちろん CTO が抜けた瞬間に組織のダメージは大きい。それでも、新陳代謝の流れの中で、次に来る CTO なり founder-turned-technical-lead なりが状況を引き取ります。抜けた CTO は次のステージで別のリスクを取り、残った会社は残った会社で次の一手を打ちます。それぞれの選択が全体としての新陳代謝を回します。

3. Not being AI-native enough for other skills to be relevant — AI-native の環境こそ稀少

元記事は、top-paying なエンジニアリングリーダー職の求人条件が「AI-native な組織をリードした経験」に寄っており、AI ワークフローを回せない環境に長くいると、市場価値が急速に痩せていく、と論じています。ex-engineering director が「fast lane に出ないと業界で relevant でいられない」と語り、academia と AI コンサルの掛け合わせで academia の外に学びの場を求めた、という具体例が引かれていました。Charity Majors の「You’ve got to get AI on your resume」という強い表現も引用されています。

自分の経験から言うと、AI-native な環境で「始める」ことそのものは、実はさほど難しくありません。Claude CodeCodex CLICursor といった AI コーディングエージェントを個人環境や greenfield なプロジェクトで使い始めるだけなら、ドキュメントに沿って数時間もあれば動きます。MCP サーバーを繋いで、AGENTS.mdCLAUDE.md を書き足していけば、翌週にはワークフローの雛形になります。

本当に稀少なのは、AI-native ではない環境を AI-native に変えられるスキルのほうです。

  • 既存の CI/CD にエージェントを組み込み、ガードレールを設計する
  • レビューフロー、リリースフロー、オンコールを AI エージェント込みで再設計する
  • 「AI psychosis」に陥った経営層の熱量を、事業インパクトのあるユースケースに向け直す
  • 会社全体のドキュメント・ナレッジ・意思決定ログを、エージェントが読み書きしやすい形に整える
  • コストと品質のトレードオフに関する意思決定の仕組みを作る

これらは、AI ネイティブに生まれた組織では発生しない問題です。逆に、既存事業を持ちながら AI-native に舵を切ろうとしている組織は、この変換タスクの塊です。今 CTO や VPE として非 AI-native な環境にいる人は、AI-native な環境に移動するよりも、その環境を AI-native に変換した実体験こそが差別化になります。

だからこそ、非 AI-native な環境で AI-native への変換を実践できる立場は貴重だと思います。fast lane に出るために辞める、というのは一つの選択ですが、fast lane を自分の足元に敷きに行くという選択もあります。後者を選べる立場は限られていて、CTO や VPE はまさにその立場です。

4. Their predecessor saw the “writing on the wall” — あなたの腕の見せ所

元記事は、前任 CTO が去った理由が「AI が仕事を悪くしたか」「エクイティが無価値になる方向か」「AI-native 化が実際に可能か」の 3 点で説明できることが多く、後任 CTO も 6 か月で辞めた具体例を紹介しています。前任者が見た「writing on the wall」を、後任もまた読み取ってしまう構造です。

これに対する私の応答はシンプルで、あなたの腕の見せ所です。

前任 CTO が離脱した会社に入るということは、初期条件として組織課題・技術負債・経営との期待値ずれがセットで待っていることを意味します。ハネムーン期間がほぼないまま、これらを一つずつ処理していく仕事になります。この状況で 6 か月で辞めるか、6 か月で流れを変えるかの分かれ目は、単純にリーダーの手数の問題です。

同時に、辞めるという選択もまた新陳代謝の一部です。前任・後任と続けて短期離脱が起きる会社は、会社としてそこで問い直しが起きます。CTO ポジションを維持できないのか、CTO の役割設計そのものを変えるべきなのか、founder 自身が technical leadership を取り戻すべきなのか。この問い直しに突入させること自体が、去った CTO の残した価値であることもあります。

残るのも去るのも、どちらも組織に対して何かを返します。「前任者が見たものを自分も見た」で終わらせず、次の意思決定材料に変換する意識だけあれば、どちらの選択も無駄になりません。

5. Long hours – rarely decisive — ハードとルーティンの mix、AI との伴走マラソン

元記事は、長時間労働そのものは離脱の決め手にならないと整理しています。事業の伸び悩み、エクイティ価値の消失、CEO や founder が助言を無視することといった他の要因と組み合わさって初めて、long hours が最後の一押しになる、という描写でした。うまくいっている事業では delegate も休息も可能で、うまくいっていない事業では起きている時間すべてが挽回に消える、というコントラストが印象的です。

私は今のところ、ハードな仕事と慣れた仕事のミックスが必要だと実経験を通じて感じています。1 日をハードな判断だけで埋めると、疲弊のスピードが指数関数的に上がります。一方で、慣れた作業だけで埋めても、AI エージェントの進化に置いていかれる。この 2 つを 1 日、1 週間、1 か月の粒度でミックスする設計が、continuous に働き続ける前提条件になりつつあります。

もう一つ、AI エージェントは長時間永遠に働けるという事実を、働き方の設計に取り込む必要があると感じています。人間側が短距離走的にダッシュしてもエージェントの稼働時間には勝てません。だから 1 日を短距離走ではなく、AI エージェントと伴走するマラソンとして設計する、というのが私の現時点でのフレーミングです。この観点は別記事の「AI Vampire と 3〜4 時間労働論に懐疑的な理由」でも整理しています。

  • ハードな判断セッションは、集中できる短い時間帯にまとめる
  • 慣れた作業とエージェントのオーケストレーションは、その周辺に配置する
  • エージェントに任せている非同期タスクの進捗を、休憩や移動の合間に確認する
  • 1 日単位の疲労ではなく、1 週間・1 か月単位の疲労の総量で設計する

long hours 自体は悪ではなく、mix の設計が甘いと壊れるだけ、というのが私の見立てです。

6. Smaller teams mean less need for leaders — AI エージェントと Human の HR を担う新 CTO 像

元記事は、fullstack エンジニアの一般化と AI コーディングエージェントの浸透によって、1 プロジェクトあたり必要な人数が 1〜2 人まで縮んでいる Anthropic の実例、Bluesky が Paul Frazee 一人で React Native と Expo を使って web / iOS / Android を出した例、そして SignalFire のデータで frontend engineer と iOS / Android engineer の需要が下がる一方、AI/ML engineer の需要が伸びているというグラフを引き、engineering team そのものが小さくなっている、と論じています。小さいチームは VPE を必要としないので、director+ のポジションが減っている、という帰結でした。

私はここで、CTO の役割そのものが再定義される局面だと考えています。従来の「テクノロジーの責任者」から、AI エージェントと Human をまとめて束ねるリーダーへの移行です。

  • どの業務を Human に置き、どの業務を AI エージェントに置くかを設計する
  • Human と AI エージェントの間の HandOff プロトコル、責任分担、監査ログを整備する
  • AI エージェントの「採用」(モデル選定・エージェント選定・ツール選定)とオンボーディング(AGENTS.md / CLAUDE.md / MCP サーバー整備)を回す
  • AI エージェントの「配置転換」と「解雇」(切替・廃止)を継続的に判断する
  • Human 側のスキル開発を、AI エージェントとの協働前提で再設計する

これは Technology の T だけではなく、全社的な AI エージェントと Human の HR に近い仕事です。従来 CHRO と CTO で分かれていた領域が、AI エージェントの浸透によって重なり始めている、と言い換えてもよいと思います。

小さいチームは VPE を必要としない、という元記事の観察は事実として正しい。ただし、AI エージェント込みで組織を設計する CTO の役割は、むしろこれから必要とされる領域だと思っています。求められる人数は減るかもしれませんが、求められるスキルセットは広がります。「T の責任者」から「AI エージェントと Human の HR も兼ねる責任者」への役割再定義に踏み込めるなら、CTO というポジションは形を変えて残ります。

まとめ

  • Pragmatic Engineer の Headed for the Exit は、CTO・VPE がキャリアブレイクに向かう構造を的確に描いており、書いてあることは概ねそのとおりだと思う
  • そのうえで、去るか残るかは個々人の生き方の問題であり、どちらの選択も会社全体の新陳代謝の一部として意味を持つ
  • 6 つの理由に対する私の応答は次のとおり
    1. 仕事が悪化していても、去るのも残るのも新陳代謝の一形態
    2. 事業が負けていくのも新陳代謝が起きているだけ
    3. AI-native で始めるのは簡単で、非 AI-native を AI-native に変える実践経験こそ稀少
    4. 前任者が見た景色を再構築できるかは、あなたの腕の見せ所
    5. ハードとルーティンの mix を設計し、AI エージェントと伴走するマラソンとして 1 日を組む
    6. AI エージェントと Human をまとめて束ねる HR 的な役割として、CTO は形を変えて残る

以上、Pragmatic Engineer の The Great Engineering Leader Career Break を、新陳代謝と新しい CTO 像という 2 つの軸から読み解いた、現場からお送りしました。

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