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Forward-Deployed Engineering が SIer 語彙になる日 — EPAM の 2026 Q2 決算に Palantir 用語が現れた意味

重岡 正 · Fri, August 7, 2026

EPAM Systems は、2026 年 8 月に Q2 2026 の決算 を発表しました。売上高は 14.15 億 USD で前年同期比 +4.5%、Non-GAAP 営業利益率は 16.4%(前年 15.0%)と、数字だけを見ればコンサバな成長と利益改善という内容です。

決算そのものよりも目を引いたのは、CEO Balazs Fejes のコメントに含まれていた次のフレーズでした。

leveraging our 30+ years of engineering DNA to build the next-generation forward-deployed engineering organization

「30 年以上のエンジニアリング DNA を活かして、次世代の forward-deployed engineering organization を作る」という宣言です。

Forward-Deployed Engineering(以下 FDE)は、もともと Palantir Technologies が広めた職能名です。従業員 6 万人規模のグローバル IT サービス大手である EPAM が、自社ポジショニングにこの語彙を採用したことは、業界内の言葉の輸出入として象徴的な出来事だと感じました。

Forward-Deployed Engineering とは何か

FDE の元祖は Palantir です。Palantir 自身が Forward Deployed Engineer のキャリアページ で説明しているとおり、FDE は「顧客現場に張り付いて、ビジネス課題の理解からデータモデリング、プロダクト実装、運用支援までを一気通貫で担うエンジニア」を指します。

伝統的な区分でいえば、FDE は次のような複数の役割を 1 人あるいは小さなチームで束ねます。

  • ビジネスアナリスト: 顧客業務のヒアリングと要件整理
  • ソリューションアーキテクト: プロダクトを顧客ドメインに適用するための設計
  • アプリケーションエンジニア: 顧客ドメイン固有のアプリケーション実装
  • カスタマーサクセス: 導入後の運用定着と拡張支援

Palantir FoundryPalantir Gotham のようなプラットフォーム製品を売る企業にとっては、この「顧客現場に深く入る職能」の質が売上と直結します。SaaS の営業やカスタマーサクセスとも、伝統的な受託開発のプロジェクトマネジャーとも異なる立ち位置です。

近年は OpenAIAnthropic のような LLM プロバイダも Forward Deployed Engineer 系のポジション を設けており、「AI プラットフォームを顧客のワークフローに埋め込む役割」として FDE の定義がさらに広がっています。

EPAM が FDE を採用した文脈

EPAM は 1993 年にベラルーシで創業し、現在は米国ペンシルベニア州 Newtown に本社を置く、Fortune Global 2000 の大企業向けエンジニアリング企業です。競合の AccentureInfosysTCSWipro が戦略コンサル寄り、あるいは大規模オフショア寄りに位置づけられるのに対して、EPAM は「プロダクトエンジニアリング型の受託」というポジションを取ってきました。

その EPAM が FDE を採用した背景には、少なくとも次の 3 つの流れが読み取れます。

  • AI ネイティブへの再定位: 決算資料では “AI-native momentum” や “AI transformation company” というフレーズが繰り返されており、生成 AI の台頭を受けたリブランディングの一環と読める
  • 人月モデルからの脱却圧力: 売上 +4.5% に対して従業員数は 62,850 人(デリバリー人員 56,650 人)。単価と稼働率を上げないと成長が止まる構造で、より高付加価値な職能への転換を打ち出す必要がある
  • 語彙の輸入: Palantir や AI ラボが FDE を掲げているため、人材市場・投資家市場に対して「同じレイヤーで戦っている」ことを示す語彙的シグナルになる

つまり、単なる格好いい呼び方の導入ではなく、「受託開発を高付加価値ポジションに再定義したい」という経営メッセージとして FDE を採用していると読めます。

SIer の語彙が変わりつつある理由

FDE のような語彙が IT サービス業に広がっているのは、EPAM だけの現象ではありません。背景には業界共通の構造変化があります。

  • AI コーディングによる実装工数の圧縮: Claude CodeCodex のようなコーディングエージェントの浸透で、実装フェーズの単価と工数が下がりやすくなっている
  • 顧客側の要求の変化: 「言われたものを作る」から「事業成果を出す」への期待シフト
  • ソフトウェアプロダクトと受託の境界の曖昧化: SaaS ベンダも受託色の強い導入支援を強化し、受託ベンダもプロダクト的な再利用資産を持ちたがる

この流れの中で、「システムインテグレーター」「オフショア開発」「受託開発」といった従来語彙は、顧客・投資家・人材市場のどれに対しても訴求が弱くなっています。FDE のように「顧客の現場に張り付いてビジネス成果まで責任を持つ」というポジション取りは、そのギャップを埋める語彙として便利です。

日本の受託開発にとっての示唆

日本のいわゆる SIer や受託開発企業に置き換えると、次のような示唆があります。

  • 職能名の再設計: 「システムエンジニア」「プロジェクトマネジャー」「テックリード」といった従来の職能名では、AI エージェントを前提とした顧客現場張り付き型の役割を表現しにくい
  • KPI の再設計: 稼働時間や工数ではなく、顧客のビジネス成果(売上・コスト・リードタイム)に紐づく指標を職能に組み込む必要がある
  • 単なる語彙の輸入で終わらせない: FDE を名乗るだけなら簡単だが、実際に「一人で複数職能を束ねる」ためのスキル要件、評価制度、単価構造まで踏み込まないと、旧来モデルの化粧直しに終わる

EPAM の決算は、こうした転換をグローバル IT サービス大手がどう語り始めているかを見る良いサンプルです。日本の受託開発・SIer にとっても、単に FDE という単語を採用するかどうかではなく、「顧客現場に入り込む職能をどう設計・評価・単価付けするか」を考える契機になります。

まとめ

EPAM Systems の 2026 Q2 決算で「forward-deployed engineering organization」という語彙が使われたことは、単なる CEO のワード遊びではなく、6 万人規模の受託開発企業がポジション取りを変えつつあるサインです。

  • FDE はもともと Palantir 発祥の職能名で、AI ラボにも広がっている
  • EPAM は AI ネイティブへの再定位と人月モデルからの脱却として FDE を掲げている
  • 日本の受託開発・SIer にとっては、職能名・KPI・単価構造まで踏み込まないと「語彙だけの模倣」に終わる

自社を「エンジニアリングパートナー」「受託開発企業」と自称している場合、決算資料に出てくる同業の語彙変化は、自社ポジショニングを再点検する材料として使えます。

以上、EPAM の 2026 Q2 決算に現れた forward-deployed engineering という語彙を起点に、受託開発の役割再定義を整理した、現場からお送りしました。

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