Cloudflare で顧客ごとにアカウントと請求を分ける — Gmail のエイリアスが弾かれる理由と、Google Workspace のエイリアス / グループで実在アドレスを用意する方法
Cloudflare で顧客ごとにアカウントを分けたい、という要件はよくあります。動機ははっきりしていて、請求情報を顧客ごとに分けたいからです。アカウントが分かれていれば、支払い方法も請求書もサブスクリプションも顧客単位で独立します。
そこでまず思いつくのが、Gmail の +alias(プラスアドレッシング)で複数のログインを作る方法です。cloudflare+customer-a@gmail.com、cloudflare+customer-b@gmail.com のようにアドレスを増やして、それぞれで別アカウントを作ろうとする。ところが、ここで次のエラーに突き当たります。
A variation of this email address is already taken in our system.
Only one variation is allowed. For example, cloud.flare+alias@gmail.com
and cloudflare@gmail.com are both the same email address.結論を先に言うと、エイリアス(プラスアドレッシング)では分けられません。別アカウントを作るには、Cloudflare にとって別物と認識される実在のメールアドレスが、アカウントごとに 1 つずつ必要です。この記事では、なぜ +alias が弾かれるのか、別アカウントを作るには何が要るのか、そして Google Workspace の代替メールアドレス(エイリアス)や Google グループで実在アドレスを用意する具体的な方法、最後にアカウント単位で請求を分ける考え方までを整理します。
なぜ Gmail のエイリアスでは分けられないのか
Cloudflare は、Gmail の + を使ったサブアドレス (plus-addressing) や .(ドット)を挟んだ表記を、すべて同一のメールアドレスとみなします。Gmail 側ではこれらは受信トレイを振り分けるための別表記ですが、Cloudflare のアカウント識別ロジックは「ベースアドレスが同じならすべて同じ人」と判定するためです。
したがって、以下はすべて同じメールアドレス扱いになります。
cloudflare@gmail.comcloud.flare@gmail.comcloudflare+customer-a@gmail.comcloudflare+customer-b@gmail.com
すでに 1 つでもこのベースアドレスで登録があれば、別バリエーションでの新規登録は弾かれます。これは仕様であって、回避策を探すべきポイントではありません。
なお、+ を使ったサブアドレス (subaddressing) 自体は個人向けの Gmail だけの機能ではありません。ビジネス向けの Google Workspace は中身が Gmail なので同じ挙動になり、Microsoft 365 / Exchange Online も既定でサブアドレッシングに対応しています(組織の管理者が無効化することも可能です)。ただし、これらはいずれも「1 つの受信トレイに届く別ラベル」であって、別アカウント・別請求の主体になる独立した ID にはなりません。.(ドット)を無視するのは gmail.com 固有の挙動です。
要するに、+ で増やしたアドレスは結局 1 つの受信トレイに集約される「同じ ID の別ラベル」です。請求を分けたいなら、ラベルではなく、本当に別のアドレスが要ります。
別アカウントを作るには、実在の別アドレスが要る
ここで「ダッシュボードのアカウント切り替えメニューから、追加のアカウントをその場で作ればいい」と思うかもしれません。私も最初はそう考えました。しかし、一般的なプランの Cloudflare ダッシュボードには、既存ユーザーが追加のアカウントをボタン一つで新規作成する導線は用意されていません。公式の「アカウントを作成する」手順も、サインアップページでメールアドレスとパスワードを入力して新しいアカウントを作る、という案内だけです。
つまり、アカウントを 1 つ増やすたびに新しいサインアップが必要で、そのたびに Cloudflare にとって別物と認識される実在のメールアドレスが 1 つ要ります。そして Cloudflare の請求はアカウント単位で、支払い方法・請求先・サブスクリプションはアカウントごとに独立します。だからこそ「顧客 = アカウント」にすれば、請求も自然に顧客ごとに分かれます。
作成後の運用も補足しておくと、各アカウントの Members から中央の管理ユーザーを Administrator として招待しておけば、請求はアカウントごとに分離したまま、1 人で複数アカウントを切り替えて管理できます。メンバー招待は Free / Pro / Business でも使えます。
flowchart TD
subgraph G["自社ドメイン(Google Workspace)"]
A1["グループ または エイリアス<br/>customer-a@example.com"]
A2["グループ または エイリアス<br/>customer-b@example.com"]
end
A1 --> C1["Cloudflare アカウント A<br/>(請求プロファイル A)"]
A2 --> C2["Cloudflare アカウント B<br/>(請求プロファイル B)"]
C1 --> Z1["zone: customer-a.com"]
C2 --> Z2["zone: customer-b.com"]
実在する別アドレスを Google Workspace で用意する
必要なのは「Cloudflare に別物と認識される、メールが実際に届くアドレス」を顧客の数だけ用意することです。自社で Google Workspace を使っているなら、おすすめは Google グループのアドレスを使う方法です。エイリアスでも作れますが、後述のとおり数の上限と管理の手間があるため、顧客を継続的に増やす運用には向きません。
Google グループのアドレスを使う(推奨)
Google グループを顧客ごとに作り、そのグループのメールアドレスでアカウントを作成します。
customer-a@example.com (グループ)
customer-b@example.com (グループ)グループ宛のメールはメンバー全員に配信されるため、請求や復旧の通知を複数人で受け取れます。担当者が 1 人退職してもアカウントが宙に浮かず、必要な数だけ上限を気にせず増やせます。Cloudflare 自身が推奨している「エイリアスまたは配布リスト」に最も近く、継続運用の観点でいちばん素直なのがこの方式です。
ただし、グループは既定では組織外からのメールを受け取りません。Cloudflare の確認メールは外部から届くので、グループの組織全体のポリシーで外部からの投稿(受信)を許可するか、対象グループの設定で外部メールを受け取れるようにしておく必要があります。ここを忘れると確認メールが届かず、サインアップが完了しません。
エイリアスでも作れる(少数向け)
顧客が数件で、すぐ試したいだけなら、Gmail の + ではなく Google Workspace の代替メールアドレス(エイリアス)機能でも実在アドレスを用意できます。ただし 1 ユーザーあたり最大 30 個という上限があり、増えると管理もしづらくなるため、継続運用には向きません。また、エイリアスは独立した Google アカウントではないので「Google でログイン」には使えず、メールアドレスとパスワードによる通常のサインアップを使う必要があります。
請求をアカウントごとに分ける
アカウントを分けてしまえば、請求は自動的に分かれます。Cloudflare の請求プロファイルは、支払い方法(1 アカウントにつき最大 2 つ)、請求先住所、サブスクリプションをアカウント単位で持ちます。最初の有料購入がそのアカウントの請求サイクルの起点になるので、顧客 A と顧客 B で請求日も明細も混ざりません。
顧客ごとに支払いカードを分けたい、顧客に明細をそのまま見せたい、といった要件も、アカウントが分かれていれば素直に満たせます。
別案: 顧客自身にアカウントを持ってもらう
自社で実在アドレスを量産する代わりに、顧客自身に Cloudflare アカウントを作ってもらい、自社メンバーを Administrator として招待してもらう、という選び方もあります。受託開発や運用保守なら、
- 顧客が契約・支払いの主体になる
- 請求はもともと顧客側に分かれている
- 引き継ぎが容易でベンダーロックインしない
という利点があり、請求分離という意味ではいちばんきれいです。自社で支払いを立て替える必要がないなら、こちらを第一候補にしてよいと思います。
まとめ
要点を整理します。
- Gmail の
+aliasや.は同一アドレスとみなされ、別アカウントは作れない。Google Workspace / Microsoft 365 のサブアドレッシングも「1 受信トレイの別ラベル」で同じこと - 一般プランのダッシュボードに既存ユーザー向けの「アカウント追加」導線はない。別アカウントはサインアップごとに、実在の別アドレスが 1 つ要る
- 実在アドレスは Google グループのアドレスで用意するのが継続運用向き。配布リストとして複数人で受信でき、エイリアスの上限(1 ユーザー 30 個)や管理の手間もない。少数ならエイリアスでも可
- 請求は Cloudflare のアカウント単位。顧客 = アカウントにすれば請求も自然に分かれる
- 自社で抱える必要がなければ、顧客自身にアカウントを持ってもらうのが請求分離としては最も素直
「顧客ごとにアカウントを分けたい」の出発点は、メールアドレスを + で増やすことではなく、実在の別アドレスを用意して別アカウントとしてサインアップすることです。ここを取り違えなければ、請求の分離も含めて素直に設計できます。
以上、顧客ごとのアカウント・請求分離を設計している現場からお送りしました。